印度維新

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続報:英下院はどのように議会休会を阻止したか。それでも「合意なき離脱」を阻止できない理由

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一部の日本メディアは「合意なき離脱」はジョンソンが議会を休会させて強行突破することで起こると報じているようだ。しかし、この選択肢は英下院が先手を打って阻止した。EU離脱とは関係のない法改正案を利用し、実質的に議会休会を不可能としたのだ。この改正案は超党派議員たちによって提出され、315対274の賛成多数で先週可決された。賛成票の一票は現政権のDCMS(デジタル・文化・メディア・スポーツ省)の閣外大臣だったマルゴット・ジェームスだ。賛成票を投じるために辞任した。棄権した現職大臣たちもいる。フィリップ・ハモンド財務相、ディビッド・ゴーク法務相、ローリー・スチュワート国際開発相と、ビジネス、エネルギー、および産業戦略担当の国務長官グレッグ・クラークだ。

 

この改正案が可決されたことにより、議員たちは年末まで2週間ごとの議会報告会出席を余儀なくされ、その後は議事のため5日連続で登院することとなる。そして、万が一休会が宣言された場合は5日目には議会を再開し次の5日連続で議事を行うことが義務付けられている。ジョンソンが「合意なき離脱」を強行するために議会を休会させることは実質的にほぼ不可能だ。41票差という数字からして、そして現職大臣たちが棄権したことからしても、ジョンソンが「合意なき離脱」を強行突破することは極めて難しい。保守党は分裂しており、「合意なき離脱」に対しては過半数の支持を得られない。よって、コービンと組むことが必要となる。

 

世の中のメディアの大半はイギリスが「合意なき離脱」に対して準備ができていないと見ているようだ。確かに、中小企業にはその術が限られているかもしれない。しかし、イギリス政府と各行政機関、大企業には2年間の準備期間があった。実際、政府はかなり準備している。離脱のタイミングが2回(3月31日と4月12日)も延期されたことで、政府内ではリアルに近いシナリオのシミュレーションができた。今では、考え得るだけのシナリオのシミュレーションが終わっていることだろう。残すは「実際の離脱」だけだ。今後さらに新たな行動と作業が必要かどうかはその時点で判断するしかない。「離脱」が及ぼすマイナス要因はあるに違いないが、政府は何も準備してこなかった訳ではない。最悪のシナリオを回避するための準備はしてきたと自負していることだろう。一つ、明確なプラス要因がある。それは不確定要因の除去だ。過去2年間、国民もビジネスも不確定要因の中にいた「離脱するのか、しないのか」。決断をするのに良い環境でなかったことは間違いない。

 

”Adversity makes strange bedfellows”という諺がある。"bedfellows"とは「寝床を共にする人」のことだ。不幸が縁で奇妙な友情が生まれるという意味だ。時に、政治も奇妙な友情を生む。シェイクスピアテンペストにも"Misery acquaints a man with strange bedfellows."という同じセリフがある。オックスフォード、ベリオールカレッジで古典を学んだジョンソンの頭を過っていることだろう。ジョンソンは離脱したい、コービンは緊縮財政をやめさせたい。環境は整っている。現代風に言うと、ゴッドファーザーPARTIII、"Keep your friends close, but your enemies closer(敵の懐に入れ)"かな。

 

 

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