印度維新

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さようならEU。保守党の歴史的大勝でイギリスはEU離脱へ

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予想通り、イギリス総選挙は保守党圧勝となった。1987年以来の大勝利。獲得議席数364、単独過半数だ。2016年の国民投票で離脱支持だった選挙区でことごとく大勝し、残留支持だった選挙区でも健闘した保守党に対し、労働党は両選挙区で票を失った。直前の党首討論後の世論調査でも、こと「ブレグジット」に関しては、コービンはジョンソンに大差をつけられていた。「2回目の国民投票」を公約に掲げながらも、党自体の方針を明確に示すことができなかったからだが、党内を離脱で固めた保守党と異なり、労働党は内部分裂が放置されたままの状態だったため、示せる訳がなかった。トニー・ブレアの選挙区だったセッジフィールドを含め、戦後以来、または何十年もの間、労働党が保持した支持基盤が脆く崩れ去った。「離脱を達成しよう(Get Brexit Done)」をスローガンに圧勝した保守党に対し、労働党は1935年以来の惨敗となった。スコットランドではSNPが保守党からも議席を奪って大勝した一方で、「EU離脱阻止」を公約に掲げた自由民主党党首ジョー・スウィンソンが議席を失った。

 

ロンドンではこの期に及んで、選挙結果発表直後に反ジョンソンのデモが行われた。EU残留を訴える大規模なデモはこれまでにも幾度となく行われ、国内外のメディアに大々的に取り上げられたが、今回の選挙ではサイレント・マジョリティが勝利した。一見、イギリス国民はEU離脱で団結したかのように見える。しかし、実際に勝敗を分けたのは、右でも左でもなく、離脱vs残留でさえない。明確なビジョンや代替案もないまま、民主主義に、離脱を決定した国民投票の結果に反旗を翻した議員たちに対する有権者の制裁だったのではないか。労働党は「二度目の国民投票」を公約に掲げながらも、自らの立場を明確に示すことができなかった。よって、離脱阻止を公約に掲げた自由民主党緑の党との共闘態勢も取ることができなかった。国民にしてみれば、国政を、国の未来を舐めているのか、といったところであろう。国民投票から3年半もの時間が流れたにも関わらず、明確なビジョンを示せない政党に国の未来を託すことはない。

 

一方の保守党はブレグジット党に救われた。党首、ナイジェル・ファラージは保守党の対立候補は立てず、実質上の共闘態勢を取ることを先月早々に明言していた。選挙戦略として効果を発揮しただけではない。ブレグジット党の躍進のおかげで中道右派が極右に傾いた(ように見えた)結果、中道左派極左に傾いた(ように見えた)ことも勝敗に影響したのではないだろうか。Mrマルキシストとしてのコービンのイメージは強調されたに違いない。中道左派は票割れした。2017年の選挙でコービンを熱狂的に支持した若者たちはどこに行ったのか。高級住宅地に住み、頭でっかちの似非マルキシストだったのが2年半経って就職し夢から覚めた者もいるし、ダイハード残留派はコービンの労働党ではなく、自由民主党に票を入れた。獲得議席数ゼロだったナイジェル・ファラージは選挙後のインタビューでは嬉々としていた。今回の選挙で「当初からの目的であった政治的影響力を十分に発揮できた」し、「ハングパーラメント(どの政党も単独過半数を獲得していない状態)を阻止することができた」からだ。

 

ダイハード保守党支持者と離脱派に間に大きな乖離がなかったのとは対照的に、旧来の労働党支持者はそもそも離脱を選んでいた。彼らの票はブレグジット党、または保守党に流れた。国民投票から3年半もの時間が流れ、残留派の中には民主主義の結果を受け入れる派が生まれていたし、離脱派、残留派を問わず、国民にはブレグジット疲労が溜まっていた。政治家も官僚もブレグジットにかかりっきり。対応が迫られている内政問題でさえ手付かずのまま放置された。コービンが党首討論会で健闘したNHSも然り。企業も国民も将来に関わる重要な決断ができないまま、実に3年半の月日が流れたのだ。ブレグジットいかんでビジョンが描けなかった。

  

さて、離脱で一致団結した保守党が単独過半数を獲得したことで、イギリスはようやくEUを離脱する道を歩み始めることができる。イギリスは遅くとも2020年1月31日までに正式にEUを離脱はするが、それはゴールではなく、スタートだ。ジョンソンのタイムテーブル(同年12月31日までに移行期間を終える)で、EUとの自由貿易協定(FTA)の折衝、締結、発行までを完了することは至難の技だ。ハード・ブレグジットの可能性が排除された訳ではない。ただ、政治評論家のアンドリュー・マーによると、ジョンソンの側近評は「(ジョンソンは)マーガレット・サッチャー(右)よりずっとマイケル・ヘーゼルタイン(中道)に近い」というものだ。選挙に勝つためには極右を意識せざるを得ず、かなり右寄りに見えることが必要だった。実際のジョンソンはどうなのか。今回の選挙結果は彼が存分に本性を発揮するに十分な結果であろう。

 

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