印度維新

インドの政治・経済・時事を語る井戸端ブログ

インドの攻めの政策:デジタル・トランザクションは今後3年で更に10倍に

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廃止された1000ルピー札と500ルピー札

その歴史的発表は2016年11月8日午後8時45分、なんの予告も無しに、突然、国営放送でモディ首相自身によって行われた。3時間15分後の高額紙幣の即日廃止を発表したのだった。ブラックマネーに準備をさせないための措置だった。そして、その翌日早朝、彼は涼しい顔でツイートした「明日には安倍総理との首脳会談に出発するぜイェイ」。当時、ことの大きさと、意表を突くタイミングに資本市場も産業界も開いた口が塞がらないといった感じ。発表直後は、批判的な報道が大半を占め、わが家も虎の子のインド株ポートフォリオを前に冷や汗ものだった。しかし、今思えば、それがインドの現金決済社会からレスキャッシュ社会(キャッシュレスではなくw)への脱皮宣言だった。モディが自ら信じる政策を断行するにあたってはリスクテイカーであり、予測不可能な政策実行力を持つことを内外に見せつけた瞬間でもあった。

 

スマホ普及だけでなく、この高額紙幣廃止こそがインドのフィンテック市場を大いに発展させ、わずか2年後にはデジタル・トランザクションが10倍超にも伸びた背景だと言われている。前政権が導入したアドハー(Aadhaar:国民識別番号制度、生体認証システム)や第一次モディ政権が導入したUPI(Unified Payments Interface:総合決済インターフェース)もこの高額紙幣廃止によって、更に開発が進んだ。UPIや電子ウォレットの需要の急伸は高額紙幣廃止を無くしてはなかったろうと思う。それでもまだ、インドは銀行口座を持たぬ(または使わぬ)人口でいえば、世界最大規模の国だ。

 

インフォシス創業者にして、アドハー設計者でもあるナンダン ・ニレカニを議長に、5人の精鋭からなる諮問委員会をRBIが設置したのは、今年に入ってからのことだ。国内メディアによると、今週月曜、RBIはその諮問委員会がインドのデジタル・トランザクションを今後3年以内に現時点から更に10倍に増やすために纏めた提言を発表した。軸足をシステム構築から普及へと移すということだ。今あるシステムをいかに一般国民に広く利用してもらうか、が今後の課題ってことだ。アドハーやUPIには登録済みでも使ってくれないのでは困るってこと。RBIによると、2012年時点で11.59%だったインドの現金流通高の名目GDP比は、高額紙幣廃止後に8.7%に低下し、2017年にはまた10.7%に上昇した(ちなみに日本では今だに20%近くもあるのはなぜ?)諮問委員会の提言は「高付加価値、低取引高、高コスト」のトランザクションを「低付加価値、高取引高、低コスト」へとシフトさせることが狙いだとか。

 

提言の具体的内容には、国に支払うデジタル・トランザクションの取引手数料の撤廃や、MDR(Merchant Discount Rate:RBIが定める割引率で、銀行が事業者の売上に課金する際に使う)への市場原理導入、銀行のKYC(Know Your Customer:顧客本人確認)コストの緩和などが含まれる。種々多様な提言の矛先はRBIだけでなく、主要監督機関全てに向けられているとのこと。SEBI(インド証券取引委員会)、IRDAI(インド保険規制開発庁)、DoT(通信省)などだ。インドを非公式経済から公式経済へと断固として移行させようとする政府の飽くなき情熱が伝わってくる。攻めるねモディ政権。

 

 

 

 

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