印度維新

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イギリスのスーパーサタデー。結果にかかわらず、総選挙は早々に断行か

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10月17日、イギリス政府とEUは新しい離脱協定案に合意した。この新離脱協定案とメイ前首相がEUと合意した協定案との大きな違いは「バックストップ」の有無だ。

 

1998年、イギリスはアイルランドベルファスト合意を結び、英領北アイルランドアイルランド間の国境管理は廃止された。「バックストップ」はイギリスのEU離脱移行期間終了(2022年末)までに、厳格な国境設置を回避する策が合意されない場合に備え、アイルランド政府が求め、EUが支持した保険だった。そこには、2022年末時点で、イギリス-EU間の通商協議が失敗に終わっていた場合、代替的な取り決めが交わされるまではイギリスはEUの関税同盟内にとどまることが定められていた。そこで問題となったのが、いわゆる「トルコの罠(Turkey Trap)」だ。もはやEU加盟国でないのに、EU関税同盟に残るということは、EUが経済協定を結んだ第三国からの物品はEUを通し関税なしでイギリス国内に流通するが、同じ第三国はイギリスからの物品に関税をかけることが可能だというものだ。実際にトルコがその不条理な状況に置かれているために「トルコの(嵌った)罠」と呼ばれている。ボリス・ジョンソンと首相の座を争ったジェレミー・ハントは、外務・英連邦大臣だった当時、「(バックストップが発動され、イギリスがEU関税同盟に残れば)イギリスはトルコの罠に嵌る可能性がある」と警告している。

 

新協定案でバックストップは削除された。新協定案では、北アイルランドはイギリスの関税領域に入るが、関税の境界線が引かれるのはアイルランドグレートブリテン島の間となり、税関検査は北アイルランドの玄関口で行われる。アイルランドへ輸送されると見なされた物品には関税がかけられるが、その判断はイギリスとEUの共同作業部会に委ねられる。みなし関税がかけられても、最終的に北アイルランドにとどまった物品の関税は、還付手続きをし、払い戻しを受ける、というものだ。一般人の手荷物検査はなく、個人間の発送品にも関税はかけられない。物品の規制については、北アイルランドEUの規則に従う。検査はイギリスの職員が行うが、EUにも職員を派遣する権利が与えられ、齟齬が発生し、EU側が規制対策を求めた場合はイギリス側が対策を講じる、とされている。付加価値税(VAT)は北アイルランドEU法を適用する(除サービス)。

 

さて、EUと合意するだけならメイ前首相もたどり着いていた。新協定案には北アイルランドDUP民主統一党)が早々に不支持を表明した。新協定案にEUが合意した理由である北アイルランドの玄関口での税関検査に反対している。イギリスとEUの共同作業部会が非課税の対象となる物品を選択するにあたり、EUが拒否権を行使できるとし、その結果、北アイルランドの消費者にとっては物品の選択の余地が狭められ、コスト高にもなる、という懸念を表明している。また、北アイルランド議会には新協定案の条項についての可否を問う権利が与えられるが、それが「複数コミュニティーの支持」ではなく、単純過半数で可決可能とされていることが、ベルファスト合意に違反するとしている。「複数コミュニティーの支持」には、ユニオニスト(親英派)とナショナリスト(親アイルランド派)の各50%以上の賛成票、または40%以上の投票率で60%以上の賛成票が必要とされている。

 

イギリス保守党は2017年の総選挙で過半数割れとなって以来、DUPから閣外協力を得ている。新協定案の承認にはDUPの同意は不可欠だ。19日に議会承認が得られなければ、「ベン法」が発動される公算が高い。今年9月にイギリス議会で成立した「合意なき離脱を回避するための法」だ。10月19日までに離脱協定の議会承認を得られない場合は、離脱期限を2020年1月31日まで延期するようEUに要請することを首相に義務付けている。

 

YouGovの世論調査によると、41%が19日の議会承認を望み、24%が否決を望んでいる。離脱派の67%、および保守党支持者の70%が可決支持だ。中身をゆっくり吟味する時間もない状況で承認を望む人々が多いということは、それだけで物語るものがある。イギリス国民は「離脱したい」ということだ。ジョンソンが19日に承認を得るには与野党の離脱派、およびDUPの賛成票が必要となる。

 

議会承認は得られるかもしれないし、得られないかもしれない。たとえ承認が得られたとしても、10月31日の離脱には間に合わないかもしれない。その場合は、ベン法の発動により、離脱は来年の1月31日まで延期されるかもしれないし、数週間のテクニカルな離脱期限がEUとイギリス議会に承認されるかもしれない。この期に及んでも、考えられるシナリオはいく通りもある。しかし、一つだけ確実に言えることは、いずれにしても総選挙は今後数ヶ月の間、遅くとも新年早々には行われるであろうということ。そして、保守党は単独過半数を得る可能性が高い。さようならジェレミー・コービン

 

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