印度維新

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巨獣めざめる - 最貧困層から脱却させるモディ政権

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夫著

わが故郷、南インドケララ州では70年代半ばより、"remittance economy(仕送り経済)"によって、人々の生活水準が上がり始めた。ここ数十年でその生活水準の向上は加速している。ケララ州の人々をマレヤリ(Malayalis)という(州の言語はマレヤラム、Malayalam)が、彼らは伝統的に州外や海外での就職に消極的ではなかった。「ニール・アームストロングが月に着陸した時、そこには”chaiya kadda(チャイ屋)”があり、マレヤリの主人がチャイを勧めた」というジョークがあるが、需要があれば何処にでも出向くという意味だ。

 

1970年代初めの石油危機以降、中東・アラビア湾岸地域、特にGCC(湾岸協力理事会)各国はマレヤリの出稼ぎ先として人気の地域となった。今日、これらの地域にはおよそ250万人のマレヤリ出稼ぎ労働者がいる。ケララ州の人口、約3000万人の1割に近い労働者が母国へ仕送りしている。程度こそ違え、北米、欧州、東南アジア、オセアニアからの仕送りもある。数十年間に渡るこれらの仕送りがケララ州の経済状況を変革させた。最貧困層の人口は少なく、人間開発指数(Human Development Indicators)で言えば、先進国に匹敵するほどだ。

 

2000年代初頭までは、物乞いの人々が実家にもよく訪ねてきて、母はその度に食べ物やお金を渡していたが、最近では滅多に見かけなくなった。代わりに、最近では見た目も健康的な輩がお金をせびりに来たりはするが、母は「仕事を探しなさい」と追い返している。ケララ州は今、深刻な人手不足なのだ。ケララ州は、経済が急成長するインド全体で起こっている変革を一足先に体現した州かもしれない。最貧困層の人口が大きく減少している。

 

UNDP(国際連合開発計画:UN Development Programme)とOPHI(オックスフォード大学の貧困と人間開発イニシアチブ:Oxford Poverty and Human Development Initiative)が共同で発表する多次元貧困指数(MPI:Global Multidimensional Poverty Index)というものがある。この指数は貧困の状態を、所得だけでなく、健康状態や労働環境、暴力に晒される頻度など多項目によって定義している。2019年度の報告によると、2006年から2016年の10年間で、インドでは複合的困難を抱える貧困層は2億7千万人超減少している。MPI指数で言えば、2005年−2006年の0.283から、2015−2016年には0.123に低下している。カンボジアと並ぶ最速のスピードで貧困層を減少させており、最貧困層がこの中に含まれる。

 

みなさんも時間があれば、World Poverty Clock(世界貧困時計)を覗いて、インドの数値を確かめて欲しい。インドは国連の持続可能な開発目標1(UN Sustainable Development Goal 1)を今年6月にほぼ達成しており、人口に占める最貧困層の割合が3%未満となっている。個人的には少しびっくりするほどのスピードだ。この時計によると、インドの最貧困層の割合は2024年までに総人口の1%未満となる推計だ。

worldpoverty.io

 ブルッキングズ研究所のH.カラス(Homi Kharas)は他2名との共著、”The start of a new poverty narraive”の中で、「われわれの推計では最貧困層の絶対人口(総人口に対する比率ではない)は2018年にナイジェリアがインドを抜いており、じきにコンゴもインドを抜く」としている。インドのこれらの進展は90年代初頭からの経済自由化に伴う力強い経済成長が背景となっている。しかし、モディ政権の政策や姿勢で未来はますます明るくなっていると感じる。最貧困層に焦点を宛て、彼らの生活水準の向上を目指しているからだ。重要なことは、モディ首相がただ彼らの生活水準を向上させるだけでなく、人々のマインドセットまで変えようとしていることだ。モディ首相の貧困に対する戦いは人々の貧困に対する姿勢、心理的アプローチも根こそぎ変革させなければ完全な勝利とは言えないからだ。モディ政権前の政権と異なるところは、出来もしない補助金や恩恵を貧困層の人々に約束しないことだ。このアプローチはモディ首相自身の出自とも大いに関係があるだろう。

map2019.hatenablog.com

モディ首相が最近提示した政治経済の展望は今までのトップダウン方式からボトムアップ方式へと転換するものだ。モディ首相は最貧困層を経済ビジョンの焦点とするとし、その一方で、全ての個人、家族、市町村、まさに挙国一致で、独立75年を迎える2022年までに5兆米ドル経済を達成すべく貢献しなければならないと宣言した。サンスクリットの諺「ライオンとて狩りをしなければ飢えるのだ」を用いて「生活は働かなければ良くならない」と訴えた。7月に発表された予算案には、今後5年間に116億米ドル相当の予算を費やし、農村地域に125,000kmの道路を建設することが組み込まれている。2022年までに全ての家庭にガスと電気を、2024年までに全ての家庭に水道管を引くと宣言している。また、720億米ドル相当を費やし、鉄道を整備するとしている。その上、全ての家庭にトイレを設けると約束している。

 

巨獣がめざめる準備が整いつつある。

 

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