印度維新

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続々生まれる”Soonicorn”にユニコーン、インドスタートアップに革命の予兆

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インドのスタートアップセクターが激動しており、革命の予兆を感じさせる。評価額10億ドル以上の非上場ベンチャーユニコーン企業が続々と誕生している。今年これまでにユニコーンとなった8社の中には、グローサリー(食品雑貨)のBigBasket、ロジスティクス(物流管理)のRivigo、eコマース・ロジスティクスのDelhivery、ファンタジーゲーミングのDream11、ITヘルスケアのCitiusTechなどが含まれる。

 

Ola Electric Mobilityも今年華々しくユニコーンとなった一社だ。EVのレンタルとリースに焦点を当てるOla Electric Mobilityは、タクシー配車サービス、Olaからのスピンオフ企業だが、今年上半期にソフトバンクから約2億5000万ドルの出資を受けた。それにより、2021年までにEV100台をインド路上に走らせるという彼らの目標は達成されそうだ。Olaの創業者、Bhavish Aggarawalがソフトバンクの追加出資を受け入れた背景には、この大投資家に経営権を脅かされるリスクを排除することに成功したというのがある。(例えば、Uberとの合併などゴメンだったし、オーストラリアやイギリスにも進出したかったしね)。

 

Icertis(クラウド型企業契約マネジメントシステム)も興味深いユニコーンだ。インド人のビリオネア、Azim Premjiの米ベンチャーキャピタル、Greycroft and Premji Invest率いるラウンドで、1億1500万米ドルを調達した。Premji氏はクッキングオイルの商社だったWiproを父親から引き継ぎ、それを巨大なグローバルITサービス事業へと変革させた。Wiproは今やインドで4番目に大きいグローバルITサービス企業だ。

 

Incertisは二本社制で、米ワシントン州のBellevueとインドのPuneを拠点としているが、開発はインド国内でしており、スタッフの3分の2超はインド人だ。Icertisを見れば、インドのIT産業の行方が分かるとも言われている。この十数年間のインドITセクターのビジネスモデルと言えば、「ソフトウェア運営のアウトソーシング」の受け皿となることだった。それでインドのITセクターは世界的にも有名になった。その従来モデルからの脱却を図ろうとしている。何千人もを安い賃金で雇用し、グローバル企業のためにソフトウエア運営をするのではなく、Icertis自体がソフトウェアを開発し、ビジネスに提供している。

 

Druva Softwareも新しいユニコーンだ。クラウド型の統合データ保護基盤のソリューションで、顧客の情報管理や情報ガバナンスを向上させる。米ヘッジファンドViking Global Investors率いるラウンドで、1億3000万米ドルの資金調達に成功し、その結果、評価額が10億米ドルを超えた。

 

インドの社会的影響投資ベンチャーにして、シード・インベスターのUnitus Ventures(印米二本社制)のインベストメント・ダイレクター、Radha Kizhanattam曰く、「今日のインドスタートアップのエコシステムは、創成期のユニコーンの奮闘と企業努力の賜物だ」と。これらのスタートアップは膨大な市場開拓コストを余儀なくされた。しかし、「そのエコシステムが成長し、近年のインドビジネス環境のマクロ的変化、潤沢な資金援助、消費者の成熟がシナジー効果を生み出し、ユニコーンクラブはどんどん大きくなっている」と。「潤沢なグローバル資金とインド投資熱、インド国内の起業家たちがグローバルな野心を持つようになったことなどが、多くのユニコーンを生み出している」としている。そして、「ソフトバンクTiger Globalなどの投資家は、資金が潤沢でリスク許容量が高く、辛抱強くもある。FlipkartのWalmartへの売却等、過去の成功を基にインドへの投資機会を探し続けている」また、「他経済においても同時並行的に同じトレンドと成長が見られることが彼らのコンフィデンスを下支えており、それがさらに創業期のスタートアップへの資金援助につながっている」と分析している。

 

2018年は「ユニコーンの年」と言われた年だった。Oyo Rooms(ホテル予約)、Policybazaar(e保険比較)、Swiggy(出前サービス)、Zomato(レストラン検索)、Paytm Mall(オンライン小売)、Freshworks(ビジネスソフトウエア)、Billdesk(EC決済)、Udaan(BBプラットフォーム)がユニコーンとなった。2019年はそれを更に上回るスピードでユニコーンが誕生している。現時点で、すでに昨年一年に誕生した数(8社)に追いついている。2012年に1社だったユニコーンは今や26社だ。スタートアップやベンチャーキャピタルを追っているメディア、Inc42は2025年までにインドのスタートアップのエコシステムは100社を超えるユニコーン企業を擁するだろうと予想している。現在のユニコーンクラブの総評価額は約500億米ドルを超える。今後この数字は急伸すると思われる。

 

ユニコーン昇格レベルの資金調達を狙う企業は多い。すでに5億米ドル相当の評価額を持つ企業も中にはある。Inc42は、スーニコーン”soonicorn”と呼ばれ、評価額が2020年までに10億米ドル相当を超えると目される30社を選び、注目している。歓迎すべきトレンドとしては、今までとは異なるビジネス分野へと拡大を見せていることだ。コンテンツやソーシャルコマース、モビリティサービスなど新しいセクターから出てきている。

 

インドの4大ユニコーンと言えば、オンライン決済のPaytm、eコマースのFlipkart(米Walmartが経営権を取得)、配車サービスのOla、教育のByjusだが、今後も、インド社会の摩擦や歪みを和らげる役割を果たし、既存サービスでは高い代価を払わなければならないようなセクターにユニコーンが出てきてくれると嬉しい。例えば、Chaloというスタートアップはバス利用者にリアルタイムのバスの時刻表と現在地を提供する。インドの1億人は下らないバス利用者はChaloのアプリを一日に何度も開けることだろう。

 

ソフトバンクは極めてアクティブな投資家だし、インドスタートアップにとっては重要な資金提供者であることは間違いないが、彼ら自身、著しい投資リターンを得ている。彼らの成功が、日本の他の大手投資家を、インドスタートアップの投資ラウンド参加へと促してくれるとよいのだが。

 

 

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