印度維新

インドの政治・経済・時事を語る井戸端ブログ

テマセク(Temasek)、インド投資拡大へ

f:id:MAP2019:20190712211200j:plain
シンガポール政府傘下の投資会社、Temasek(テマセク・ホールディング)がインド投資を拡大する方向だ。Temasekのシニア・マネジング・ダイレクターがインド国内メディアのインタビューに答えた。Temasekのインド投資は15年前に始まり、インドポートフォリオはTemasekグローバル・ポートフォリオ(3130億米ドル)の5%に達するという。消費関連セクターにかなり焦点を当てており、その投資分野は小売、金融、保険、テクノロジー、ヘルスケア、医薬品など多岐にわたる。過去5年間は、年間10億米ドルのペースでインド投資を進めてきたが、今後そのペースを速めたいと表明。

 

インタビューでは、投資対象としての具体名は避けながらも、セクターごとの見解を述べている。先週発表されたインド政府の新予算案に盛り込まれた改革案、「上場株式の固定株主の持ち株比率を現行の75%から65%に引き下げ、浮動株を増やす」効果から見込まれる投資機会も窺うとしている。言及された投資対象セクターを簡単にまとめてみた。

保険

現政権中にも市場規模は2800億米ドルに達すると見込まれる。SBI Lifeへの追加投資を含め、セクター全体で投資増を検討。

金融

ポートフォリオの中核を占める。成長経済における銀行セクターへの投資は必須。民間銀行には投資しているし、過去には国営銀行にも投資したことがある。

インフラ関連

すでに、Adani Port、NIIF(National Investment & Infrastructure Fund)へのFDIの他、インドに進出しているシンガポールのKeppel(湾岸、土地開発)やSembcorp(電力)に投資。同じく投資先であるCapitaLand Ascendas-Singbridgeとはインドでジョイント・ベンチャーを始めている。経済を牽引するセクターであり、インドが官民あげてインフラセクターに焦点を当てていることを好ましいと思っている。我々も注視していると。

テレコム

過去十数年で市場参加者が淘汰され、投資環境は構造的にかなり好転したと思っている。現政権中にも、インドのインターネットユーザーは新たに5億人増える見通しで、著しい成長が見込まれる。5Gの到来で、従来のビジネスモデルが焦点をあててきた”B2C(Business to Consumers)”から、”B2B(Business to Business)”へと拡大する中で、各社がどのように企業価値を高め、ビジネスセクターへのコネクティビティを提供していくかを見極めなくてはならない。

消費関連

消費減速は短期的なものと見ており、長期的には、今後も消費関連セクターへの投資を続ける。我々が消費関連と定義づけるセクターは広い。ヘルスケア、テクノロジー、金融サービス、フィンテック、インフラ関連などを含む。短期的な変動要因で投資を躊躇することはない。

スタートアップス

この5〜7年で、インドのスタートアップスは一つの魅力ある投資セクターとして発展した。その結果、ベンチャーキャピタル、エンジェル・インベスティング、ベンチャーデットなど、幅広いアセットクラスからの投資資金が流入している。我々はInnoVenというベンチャーデット会社に投資しているし、ベンチャーキャピタルではVertexをポートに組み入れている。4、5年前に投資した例としては、BillDesk、Policybazaar、Info Edge、Zomatoがある。直近ではOlaやPine Labsがある。我々としては、既存経済には存在しない解決方法を提供するスタートアップスを探している。例えば、シェア経済における問題の解決方法を提供したのがOlaだ。勝者を早くに見つけ出し、支援し、彼らのライフサイクルを通して資金を提供することによって、我々も株式投資複利効果が得られる。しかし、もっと重要なのは、彼らが成長し、ビジネスを拡大、分散していく過程で、彼らとパートナーを組み、そのエコシステムが成長すれば、我々自身のエコシステムにもつながるということだ。Temasekは1000億米ドル以上の収益を連結しているが、連結していない企業も多い。しかし、それらの企業においても我々が重要株主であることには違いない。それら企業が彼らの顧客ベースともなりえるわけだ。我々のエコシステムが彼らに恩恵をもたらしていることもある。我々はスタートアップスだけでなく、成熟した投資先企業にも価値をもたらすことを考えている。

総括

Temasekはインドには長期的にポジティブである。世界の中でも最も成長のスピードが速く、FDI(外国人直接投資)は450億米ドルにも上る。インド政府の改革や政策もポジティブであり、とても好ましい投資環境となっている。シェア経済の担い手となる中流層の台頭も我々の投資方針にかなり密接に適合する。過去5年間は、年間10億米ドルを投資してきたが、今後5年間は、それを上回る投資を続けていきたいと望んでいる、とインタビューを締め括った。

 

Temasekは昨年度、グルーバルには投資ペースを落としている。売却(210億米ドル)が投資(180億米ドル)を上回ったのだ。しかし、ことインドに関しては、トレンドは逆行している。昨年度はインタビューで触れられたNIIF(インド政府がインフラ建築の資金調達のために設立)、Adani Ports、Pine Labsなどの他に、L&T's electrical and automation(Larsen & ToubroのE&Aビジネス)や、AU Small Finance Bank、Special Economic Zones、Dr Agarwal's Eye Hospitalsなどにも投資している。インタビュー通り、彼らが定義づける消費関連セクターへの投資が活発だ。

 

東南アジアの小さな島国、シンガポール地政学的にも友好的な国々に囲まれているとは言えぬが、その分人材開発に力を入れ、経済、教育、医療分野で高い競争力を誇る。世界有数の金融センターであり、一人当たりの名目GDPは米国を超える。世銀のビジネス環境ランキング2019では世界第2位である。そして、投資家としての彼らはリスクテイカーだ。多文化主義、文化の多様性がその下地なのかもしれない。そこが日本との大きな違いなのではないかと思う。慣れていないインドという国、インド人に対する人見知りを克服しなければならない。もうその時期はとっくに来ている。大投資家としての日本、ソフトバンクじゃない日本企業の活躍も見てみたい。

 

 

ブログランキング・にほんブログ村へ