印度維新

インドの政治・経済・時事を語る井戸端ブログ

ブレグジット:たまにはイギリスの話もしてみよう

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イギリスの新首相の人選も大詰めに入ってきた。先週木曜に行われた保守党党首選の最後の議員投票で、候補者は当初の10人から2人に絞り込まれた。前外相のボリス・ジョンソンと現外相のジェレミー・ハントだ。今後は全国16万人の保守党党員による郵送投票による一騎打ちで、決定される。発表は7月23日だ。

 

メイ首相はそれまで首相の座にとどまる。日本では彼女に同情的なメディアを目にすることがあるが、ここイギリスでは彼女の降板を惜しむ声は聞かれない。国民は政府の優柔不断と、それがもたらす不確定要因にもう辟易しているからだ。確かに複雑難解な離脱条件をEUと合意したのは彼女の手柄かもしれない。しかし、そのやり方が問題だった。彼女の頑固さと想像力の欠如のせいで、その手柄で議会の合意を勝ち取ることができなかった、と国民には思われている。何よりも、「根回し」という言葉は彼女の辞書には存在しないようだった。根回しは日本だけでなく、おそらくどこでも、組織が大きな決断をする時には絶対必要なことなのに。「鉄の女」と揶揄されたマーガレット・サッチャーだって、必要な時はそれをしたのだ。ましてや、メイさん、あなたはサッチャーでもない。サッチャーの人を圧倒し、ひれ伏せさせる力はあなたにはないのだ。ご自分のあだ名をご存知でしょう。Maybot(メイボット)だ。それもOSがよく壊れ、何回もリブートしなければいけない旧式ロボット。人を説得するのに同じことを何回も、そして前回より多少声を張り上げて主張すれば、何とかなると思っていませんでしたか?そこがまさにMaybotと言われる所以なのだ。

 

そして、結果はボリス・ジョンソン首相の誕生だ。一部には出来レースとみる向きさえある。最悪だ、と思っている国民は多い。議員投票では人気でしたけどね。160票という過半数を超える票を獲得してるんですから(対ジェレミー・ハントは77票)。確かに、ジェレミー・ハントは出来レースと言われても仕方がないくらい影が薄い。良い人そうではある。でも、印象はそれだけだ。あぁ、中国での大失態は記憶に残ってます。何と王毅外相との会談で、自分の妻を日本人と言い間違え、慌てて「いや中国人でした」と訂正したのだ。あちゃー、この大恥さらし。そして、彼が保守党内で不人気な理由は彼がEU残留派だったからだ。その彼のあだ名が「ズボンをはいたテリーザ・メイ」(失礼!)。思うに、ジョンソンはマイケル・コーブ環境相を潰すために、一部の議員にハントに投票するよう頼んだに違いない。

 

さて、次期首相ほぼ決定のボリス・ジョンソンだが、上流階級出身でイートンからオックスフォード大学へ進学し、政治家になる前はジャーナリストだった。かつての同僚達の人物評としては、あまり誠実ではなく、勤勉でもないというもの。真理を追求する興味はあまりなく、自分の考えや偏見を肯定する情報のみを探してくるタイプだということだ。もっと言えば、人種差別主義者かと思わせる言動もある。「女王はイギリス連邦諸国を訪れるのが好きだ。なぜかって、イギリス国旗を振る"piccaninnies(黒人の子供たち)"に歓迎されるからだ」と、旧植民地支配者が使用した俗称をいまだに使ったことは記憶に新しい。外相としての期間が短かったのも頷ける。

 

大統領や首相になる人物たるもの、だいたいにおいては、多少エゴイストで、自分中心的なんだろうとは思う。しかし、それも程度問題だ。もちろんトップに上り詰めるには野心も必要だろうが、政治理念、政治哲学、原理原則の部分で、それぞれが抱えて生きているものがあるはずだ。正直言って、マーガレット・サッチャー以降の歴代の首相の中で、記憶に鮮明に残る首相はサッチャーとブレアだけだ。それでも、その他首相の政治理念ぐらいははっきり確認することができた。しかし、ジョンソンにはそれがない。あるのは自分だけだ。ボリス・ジョンソンが朝起きてから、夜寝るまで気にするのはボリス・ジョンソンだけだ。ボリス・ジョンソンにとって何が一番得策か、が彼が考えることなのだと思う。私生活の方も、あまり穏やかではない。結婚は二回、数いる浮気相手の1人とは子供までもうけている。二番目の妻と離婚し、直近では新たなパートナーとの痴話喧嘩が大きな注目を集めている。先週金曜、女性の叫び声を聞いた隣人に警察に通報されている。「離して!」「ここから出てって!」という女性の声がその隣人によって録音されているそうだ。二人とも無事であったということだが、さて、これがどれくらい決選投票に影響するだろう。まあしないね。

 

7月末に首相となるジョンソンには問題山積だ。2016年の国民投票以来、もはや3年も、ブレグジット以外のことは国会でまともに審議されない状態が続いているのだから。閣僚も議員も官僚もブレグジットに掛かりきりだ。曲がりなりにもG7に数えられる大国にして、あり得ないくらいお粗末な話。しかも、悲しいことに、この状況はブレグジット後も1、2年は続く可能性大だ。メイ首相が合意した離脱条件は離脱時とその後の過渡期の措置に限られており、EUとの長期的関係に関しての交渉はまだこれからだからだ。ったく、たけしもびっくりの離婚交渉だ。

 

経済的、社会的混乱は相当なものだ。過去3年間で、イギリスへの外国人直接投資はなんと30%減。逆に、EUへの投資は43%上昇している。国内企業の設備投資も壊滅的だ。中銀予想では、投資への影響は6%〜14%減と。3年も不確定な状況が続いているんだから当然だ。今年前半は二回も離脱のデッドラインがあったしね(3月29日と4月12日)。ブレグジット前の段階でこれなんだから。はぁ〜。政府が豪語する就業者人口にはゼロ時間契約の従業員の数が埋もれている。この国には、自分の資格に見合わぬ、過酷で低賃金の職についている人々がかなりいることをお忘れなく。

 

ジョンソンはイギリスを10月31日までに離脱させると公約している。魔法でも使うんですかね。EUは条件の再交渉はないと繰り返し断言している。そもそも、新欧州議会と新欧州委員会が発足するのは11月1日だ。それまでは誰も交渉のテーブルにつくことはできない。一方で、新首相であっても、EUを合意なく離脱する権能は与えられていない。英議会はすでに合意なき離脱を拒否する決議を採択している。

 

さて、落とし所はどこか。10月31日までにあり得るのは結局、テリーザ・メイEUと合意した離脱条件の採択だ。EUからどうでもいいような妥協を引き出し、それを議会や国民に英国の勝利として売り込むくらいは、ジョンソンのことだ、お茶の子さいさいかもしれない。ほとんど変わらない内容なのに、メイには従いたくないけど、ジョンソンならという議員も多いかもしれない。それか、またEUから離脱延期を引き出すか。ま、それは国民もジョンソンも許さないだろう。イギリス在住でない方々にとってはそろそろ高みの見物、ポップコーンを用意する頃だ。

 

  

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